知られたことのない星座 > the Echoes前のページ次のページ

2005/01/31 徒然草:第二一五段:夜の酒には・・・


 平宣時朝臣さんが歳喰ってからこう言ったんだってよ。
「最明寺入道がある晩おれのことを呼んでくれたことがあって、『すぐに』とか返事はしたものの
 ろくな服が無くってドタバタしてっ時にまた使いがやって来て『直垂でも無ぇのかよ。夜なんだ
 から見えっこねえって。格好なんて良いからとっとと来いよ』なーんて伝言貰っちまった。んで
 ヨレヨレの直垂で普段着同様のまんま訪ねてみたら、銚子に土の器を持ってきて、『この酒一人
 で呑むのも如何なモンかって思って呼んだんだけどよ、肴も無ぇ。皆寝ちまってるし。ちょっと
 何か無いか探してみてくれや』とか言うわけよ。仕方ねえから紙燭の明りで台所漁りみたいな事
 したら、棚にあった小さな土器に味噌がちっとだけ付いてんの見付けて、『見付けたぜぇっ』て
 言ったら『よっしゃー。足りる足りる』ってことになって二人で数献呑んだんよ。楽しかったな
 あ。あの頃はそんなだったけどなぁ」



 徒然草は中学の頃に通して読み、以後も時々引っ張り出しては読んでいる。吉田兼好の歯に衣着
せぬ言いたい放題と、自分の美感だけを絶対根拠にした決め付け理論が爽快な怪文書であって、こ
れはなかなか面白い。
 で、ずっと昔に読んで、なんとなく好ましいイメージが忘れ難かった話を探し出して訳してみた。
最明寺入道(北条時頼)に呼ばれて行って二人で夜中に酒を呑む。つまみは味噌。つまりそういう
話である。俺はこの話がぼんやりと頭にあるので「味噌だけ」とか「××だけ」とかいう質素さも
味わい深くて良いと思えるのかもしれない。
 贅沢なイメージ。大切なものがはっきりする舞台。兼好や、よし。


知られたことのない星座 > the Echoes前のページ次のページ